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コラム

■東京扇子

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Sensu: towards a festival of beauty
東北大学名誉教授  田中 英道
Hidemichi Tanaka
Professor emeritus, Tohoku University

扇子は、一方では暑さしのぎに、他方で身近に美術品を持つ喜びに、かけがえのない貴重な持ち物であることは、誰もがご存知のことであろう。実用と美の併せ持つ扇子は、その選択に、語呂合わせではないが、人のセンスを問われることになる。私は暑さしのぎや、顔を隠す実用性などよりも、その扇子の絵柄が気に入ると、ともかく買ってしまう。むろんそれは大芸術とは違う。しかしそこに酒脱な絵模様があると、日常性に心ときめく要素が入り込み、魅せられてしまうのである。

扇子はやはり江戸時代のセンスが合う。浮世絵を生み、歌舞伎を創造した後期江戸文化は、そのセンスの良さで、抜群の時代である。粋とか酒脱で、そこには日本人が近代に持った美が見事に結晶している。そこには軽さや悲しさもある。その失われた深い宗教性や伝統性が、重々しさを欠かせているように見える。しかしそれでも、自然が深く人間化されたこの時代は、仏教や儒教といった教えを超えた、人間的センスの良さで補っているのだ。